ずいぶん前に閉店したパン屋の話しを懐かしむ。
「あそこってさー、なんで閉店したんだろう。スコーンおいしかったのにね」
そういえば車で片道2時間ほど離れた場所にあるパン屋に、
せがまれて行っていた記憶がある。
当時そこは比較的のどかな地域で、広大な田園風景のなかに
一軒の小屋がぽつんとたたずんでいたのを思い出した。
そこがパン屋だと気づいたときは、まるで絵本の1ページのようだと感心したものだ。
たしかオーナーの前職はカメラマンだったはず。
「前職じゃないよ、現役だよ。パン屋やめてカメラに専念するって話だったはず」
閉店の理由は知っているのか。人気店だったのにどうして閉めたかということか。
「あのオーナーって、もともとカメラマンとして世界中を回ってて、いろんなところでお世話になってたんだって。あるとき、しばらく修道院に寝泊まりしてたらしくって、そこでパンの焼き方教えてもらったんだって」
パン屋を開いたきっかけとしては、なんとも素敵なお話しである。
あの絵本のような店の佇まいもうなずける。
なんだか実在したのかどうか、わからなくなってしまった。
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